漂流博士

仕事は仕事、人生は違うところにある。

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言葉の壁

先日、イスラエルとパレスチナで活動するある日本人フリージャーナリストの現地日記を読んだ。真っ先に感じたことが二つ。結局のところ、言葉(ヘブライ語)が分からないことの恐怖、実はそれが様々な思考と現地理解に大きな影響を与えているのではないか、ということ。それから、「民衆」という神聖視し過ぎた表現に自らが束縛されているのではないか、ということ。これら二つは彼に限ったことではなく、その地に足を踏み入れているフリージャーナリストの多くに共通していることではないか、と思い始めると、どんどん「そうだ、そうに違いない」という勝手な確信に進んでいってよろしくない。会ったこともない人に対する考えが一方的に進むのは怖いので、ここで前者のことだけでも書きとめて私一人の狭い考えから開放することを目指したい。

この現地日記にはガザへ向かう検問所での様子が詳細に記述されているのだが、いかに検問所の扱いが厳しいか、また、非人道的か、という問題はこの地を題材にした現地レポートではよく取り上げられるし、その扱いを非難する活動も多い。検問所の扱いに抗議する活動は国際NGOやNPOに限らず、イスラエル人の友人たちからも「微力だけど、抗議の動きは見せないと」と活動の声を聞いた。

軍服に身を包み、自分の知らない言葉を話す人と接する。その時間は、それだけで十分恐怖だ。ヘブライ語同士の会話は時に喧嘩のようにも聞こえるし、自分のパスポートがいったん自分の手を離れ、そんな兵士達の手に渡り、逐一調べられる間、自分が検問所を通過できるかどうか、という不安と共に「独り」過ごさなければならない時間は、誰にとっても気分のいいものではない。

その現地日記を読んでいると、言葉が分からないがゆえに生まれるそうした恐怖や緊張感、それが検問所という場とそこで過ごす彼の時間をかなり支配しているように思えてならないのだが、それは彼本人の恐怖や緊張感と自覚されそうになる瞬間に、パレスチナの人々が日常的に感じている恐怖や緊張感への共感へスルリと置き換わってしまう。私はこの地の現地レポートを目にする時、すでに見るものを行く前から予想しているのか、個性が感じられないな、といつも感じてしまうのだが、それはこのあたりの壁を自分から他人に置き換えていることなのかもしれない、とふと思った。

言葉が分からない空間にいること、そのことは、そのことだけで耐えられないほど怖いのだ。そして、その怖さを受け入れることも怖いのだ。しかし、この怖さは、言葉が分かれば随分と軽減されるものだと私は信じている。いかつい顔でパスポートを手にしながら、案外他愛のないことを話している、それが分かるだけで、スッと恐怖心も緊張感も消えていくこともある。

現地日記を読み進めていくと、そのジャーナリストは長年その地で活動しているので、様々な情報や研ぎ澄まされた感覚を持っていて、そのことには敬服する一方で、そうした体感したことを英語の情報だけで処理しようとすることが様々な無理を生んでいるように見えてしまう。日本にいるジャーナリストが「Japan Time」や「Daily Yomiuri」で情報や地元感覚を得ようとしてもそれは無理がある、それと似ている。

実は、この現地日記を読んだ同じ日の夕方、この住宅に住むブラジル人と会ったのだが、船長はスペイン語で何とか会話ができたものの、その横にいた私は一言も、それこそ「English」の一語も通じず、「目の前にいるのに目の前にはいない」という久しぶりの言葉の壁を冷たく体感した。それだけに、現地日記を読みながら、そのジャーナリストが直面している言葉の壁が見えて仕方なかった。

言葉が違っても通じ合うことはできる。もちろん私はそのことを信じているのだが、言葉が通じないことで立ちはだかる壁があること、特に、現場に行き、現場を描く、という作業に携わる者として、その限界を自覚しつつどれだけ誠実に現場に接近できるのか、ということは基本的な課題なのではないかと思う。

私は、ガザに足を運ぼう、とは少なくとも今の時点では思わないので、現場に行く、というエネルギーと勇気には素直に感心する。ただ、現場に行けば現場が分かるわけではない、まず言葉の壁があって、乗り越えられるものと乗り換えられないものがあることの見分けは必要だろう。現場理解(他者理解/異文化理解)の過程は、限界点から出発している、当たり前のことだが長く接しているとそれを忘れて「分かった」気になってしまう、ヘブライ語の精度をもっとあげないと、と自分を反省しながら「言葉の壁」について久しぶりに考えた。
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