漂流博士

仕事は仕事、人生は違うところにある。

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漂流博士、法廷に立つ

名刺交換しながら、ヘブライ語と日本語の通訳/翻訳やってんですよ、と自己紹介すると「へぇ~珍しいですね~」と羨ましがられるものの、「珍しい」は仕事だと厳しい。

ヘブライ語は希少言語なので、仕事機会も希少で「珍しい」。全国でもそれほど人数がいるわけではないけど、仕事の機会が少ない分競争は常に全国規模で繰り広げられる。

競争の激しい主なヘブライ語通訳の一つ、法廷通訳の依頼が急遽入った。場所は東北。久しぶりの依頼なので、ガッチリと確保し、新幹線に乗って東北方面に向かった。

新幹線の中で起訴状などを下読みし、しっかりイメージをつけて法廷へ。通訳は裁判官、検察官、弁護士が口から発したものを訳すのが主な任務。

被告人がヘッドフォンをつけて通訳がマイクで話す機器が整っている場合だと、同時に進行していくので、法廷で今何が行われているのか、という空気を感じることは結構難しい。

今回はそうした機器がなく、裁判官も検察官も「ではここまで」と丁寧に一時停止のサインを入れてくれたので、それぞれが話している間は聞きながら傍聴席を眺めたり、被告人や弁護人の目を見たりできて、初めて法廷の空気を感じることができた。

通訳人は裁判官の真下という、法廷全体を見える位置に座る。野球で捕手を務めた時期が長い私としては、「しまってこうぜ~」と言いたくなる、そんな場所が通訳人に与えられる。

今回は本当によく見えた。緊張しているというよりも、長期の拘留で疲れきった被告人と、何となく「イスラエル人だってよ、見てみるか」と軽いノリで座っている人たちの傍聴席のアンバランス具合、そして最もキリリと顔を引き締めて、エネルギーを発している検察官。そして、すでに対応を決めているのか、のんびりと経過をうかがう弁護人。

そうした全体の空気を感じられると、通訳としての自分の役割を冷静に理解して、その場に馴染んでいくような通訳が必要、ということを今回初めて実感した。

私は通訳の個性にこだわっているものの、法廷ではそれは極力抑えてきた。しかし、今回法廷全体を見渡し、疲れた被告人の表情を見たとき、反射的に彼に適した表現の仕方が思い浮かんできた。その表現が被告人によく伝わっている、ということも今回通訳人としてはっきり実感できたのは嬉しい収穫だった。

希少言語で希少な機会をしっかりと獲得するためには、他とは違う個性をしっかりと確立しなければ、と改めて思う。公正さと事実の理解という法廷での基本事項を維持した上で、その場と伝える相手に適した表現を見つけ出していく、それが法廷通訳の役目なのかもしれない。

言葉は機械ではなく、人間が語るもの、そこに通訳人の仕事があるという魅力を感じながら、帰りの新幹線に乗った。
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