漂流博士

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いい本の基準:『他者の権利』プチ書評

研究者には、研究(独創性)、書く、口頭で発表する、教える、といった様々な能力が求められるが、何より基本は読む力だと思う。私はこの読む力、というか読むことそのものが苦手。小さい頃から本を読んでも、何が書いてあったのかすぐ忘れてしまうし、「どうだった?」と聞かれても内容を覚えていないので全く答えられないことがしばしば。小学2年生の頃、祖父に送ってもらった『二宮金次郎』を読んだ後、祖父に電話で「どんなお話だったかい?」と聞かれ、しばらく考えた末「最後に死んじゃった」としか言えなかったことはちょっとした屈辱感と共に今でもよく覚えている。そんな私が、"お、この本面白い"と思えるには、とにかく簡単な言葉で分かりやすくないといけない。特に、この本で何を言おうとしているのか、何が言いたいのか、筆者の目標が序論で明確に伝わってくると、いいなこれ、とペースも上がる。

『他者の権利』は先日もちょろりと取り上げた最近の私のヒットなのだが(参照:漂流博士「収穫の秋、研究の秋」)、理由はその明確な序論にある。序論を読めば、筆者セイラ・ベンハビブが何を言いたいのかがほとんど分かるので、本を読むことが苦手な私でも、筆者と同じ足並みで読み進むことができて、「何が書いてあったっけ?」と一人迷子になることがない。この本はケンブリッジ大学で行われた講義の原稿を基にしている、ということも読むときには分かりやすい一因なのかもしれないが、講義でも本でも、いわゆる「つかみ」が重要だ。

本書では、政治的成員資格に焦点をあてることで、政治共同体の境界線が検証される。

これが『他者の権利』の第一文なのだが、いきなりこの本の目標から始まる。前置きなく、ガバっと本題に入る本は、筆者のピントも一つにビシッと決まっているので、ボヤッと本を開いてもすぐに読む戦闘態勢に入れる。私なんかはすぐに「政治的成員資格?」と一瞬頭に「?」が浮かぶが、

ここでいう政治的成員資格とは、外国人やよそ者、移民やニューカマー、難民や庇護申請者を、現存する生態に編入するための原理と実践のことである。

と、つかさず次の文でフォローしてくれる。その直後には「政治的境界線は、、、」と続くのだが、こうした読者思いのペースとフォローはうっとりとしてしまう。『他者の権利』という一見モヤモヤしたものを、これくらいすっきりとしたつかみで第一文から書いてみたいものである。

近代の国民国家の境界線は不可視であると同時に、政治的成員資格の加入および脱退を規制する実践と制度も不可視であって、理論的な検証や分析にかけられなかった、というベンハビブの問題提起に納得できるのも、直前の政治的成員資格と政治的境界線の定義付けが明確だからであろう。問題提起まで読者をしっかり引き付けておいて、

そこで本書では、国境横断的な移住が、そして国境を越えた諸国民の移動によって提示された憲法上および政策上の争点が、国家間の関係の、したがってグローバルな正義の規範理論にとって重大であることを論じてみたい。

ともう一段踏み込んだテーマを提示されると、読み手の頭の中には地球上で国境をまたいで移動する人々がイメージされてより具体的になる。

ここまででまだ1ページ、私でも「ベンハビブについていける!」という自信と安心を与えてくれる、素晴らしい「つかみ」である。

本を書く、という作業の前には研究と議論がかなり積み重なっていて、実際に書くのは短時間。私はまだまだその積み重ねの段階なのだが、その過程でこうしたいい本に出会うと、積み重ねた先の目標も明確になっていい。どれだけクリアーな一文で書き出せるのか、それが当面の私の目標である。
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