漂流博士

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単なる番号、それが与える喜びについて

8桁の番号、ただの番号なのだが、手にしてちょっとした喜びがあった。

「カケン(科研)」と呼ばれる日本学術振興会の研究助成の募集要項が9月3日に発表され、私もサイトで該当分野の応募資格や締め切りについて確認し始めたところなのだが(ちなみに「若手研究」は年齢制限が37歳、42歳以下なので"若手"の定義は相対的なのだとシミジミ感じる)、基本的な条件として応募者はどこか研究機関に所属していないといけない。

多額の研究助成を支払う対象を、研究の場を研究機関によって承認されている者に限定するのはその合理性も考えて道理に適った方法であろう。私のように一度研究機関を離れた者には、研究室が使えて、図書館が使えること、すなわちある研究機関に研究することを承認してもらうことが最初の関門であって、研究機関に所属するという一見当たり前の資格を得ることは案外大きな一つの目標である。幸い、6月の退職を機に(元)国立大学に所属した「博士研究員」になることができたのだが、それはカタガキ以上の機能を果たしてくれることを改めて実感している。

まず、「博士研究員」を名乗ることによって、論文を発表する際などに「私は研究を生業にしようとする者です」と宣言する効力を与えてくれる。さらに、これが現実的には大きいのだが、研究助成などを申請する際に「所属機関」をきちんと名乗れるようになり、特に「カケン」に応募するには研究機関が取りまとめる「研究者名簿」に記載されている研究者であって、それを証明する「研究者番号」の入手が必要なのだが、「博士研究員」であることはそれを可能にしてくれる。

そうして発行された「研究者番号」がカケンの募集要項が発表されたタイミングで先週届いたのだが、そこに並んだ数字を目にして、新たな扉を開いてくれる鍵のような、また日本の研究機関に所属する他の研究者達の仲間入りを果たしたような、そんな小さな喜びがあった。

単なる番号がある社会へ所属する資格権利を表すことは、パスポート番号や身分証明書番号(日本にはないが)などでもお馴染みだが、個人的な経験としてそうした意味合いの番号を手にして何かしらの心の変化を実感したのは今回が初めてだと思う。

行政システムとしてのパスポートや身分証明書、また国籍という資格と個人の所属意識についての関係は、学部時代からの関心事項でもあり、博士論文でも取り上げている。イスラエルでは建国直後の1950年に成立した帰還法によってユダヤ人であればイスラエルへの移住(アリヤーという上ることを意味する語で表されるので、通常は帰還と訳される)と同時に国籍を入手できるのであるが、その国籍の授与は現在身分証明書の授与によって象徴的に表現される。

昨年実施した調査中に、エチオピアから移住してきた人々にこの身分証明書を授与する機会に出席したことがある。この「身分証明書授与式」は、移住者の一時滞在センターの長が「みなさん、おめでとうございます、これによって皆さんがだれであるのか、どこに所属しているのか、全て分かるようになります」との挨拶で始まった。その後エチオピア出身の人々がエチオピアの礼儀に従って左手で右手を握りながら右手で握手をして身分証明書を受け取り、さらにその身分証明書を手にした腕を上に掲げて喜びを表す瞬間がとても印象的だった。
ID受け取るエチオピム


IDをかざすエチオピム


実際に子どもを学校へ通わせて、就職して、さらに国民保険を受け取る、将来は年金を受け取るといった社会福祉サービスを得るためには国籍の入手が不可欠であって、そうした基本的な生活が保障されるという意味での喜びは当然あるであろう。しかし、国籍には権利を獲得して義務を果たすことの他に、いやまたそれ以上に、所属意識という目には見えないものが隠れていて、さらにその所属意識の獲得には喜びが伴っていることを考えると、身分証明書やそこに記されている番号が与える喜びはもっと複雑であって、手放しで喜べるものでもないのではないよな、などと「身分証明授与式」に出席した時に私はいろいろと考えた。

この度「研究者番号」を見た時、並んだ数字を見たときの喜びという心の動きはもしかしたらこんな感じだったのかもしれない、と私はその「身分証明書授与式」の光景をフっと思い出してしまった。「研究者番号」は所属意識を表すものでも、またそれを求めるものでもない。研究助成を申請するための「研究者番号」と兵役に呼び出されることも意味する国籍を表す「身分証明書番号」とは比較にならないことも充分認識している。しかし、単なる数字であっても喜びを感じることがやはりあるのか、という私の経験と、それによって「身分証明書授与式」の場面とそこで感じたことを思い出したことには何らかの関係がありそうで、まずはきちんと記録することにする。
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